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DANCER〜世界一優雅な野獣

@スカラ座

フライヤーを見た時からこれは行かねば!と思っていた作品。
タトゥーだらけの破天荒なダンサー、というのが煽り文句で
だからこそ日本語タイトルで「野獣」と付けたのだろうが
観れば野獣どころか一番大切な家族と切り離された寂しい小犬ちゃんだった。

そもそもタトゥーをこれでもかと入れる人は(儀礼的なものは除いて)何かに縋りたい気持ちが強いと
私は思っている。
自分が求めても得られない何かがあればあるほど、確実に形に残るものを自分の身体に
しっかり刻み込むことでその隙間を埋めようとしているとしか思えない。
このタトゥーまみれは弱さの象徴でもあると思うのだ。

でもこんな尋常でない才能は1人じゃ抱えきれないのも当然かもしれないな。
ロイヤルバレエアカデミーで3年飛び級して、入団して19歳でプリンシパルになり22歳で退団、
ロシアに戻ってオーディション番組からモスクワの劇場のプリンシパル・・・
ここまで来ると突き抜けすぎて怖くなる。
踊ろうと思えばどのようにも踊れてしまうのだから、“踊るため”という目的がそもそも存在しない。
誰もが「出来ないことが出来るようになる」ために頑張るのにそれがない。
目標がない中で何かをしなければいけないというのはどれほど孤独だろう。

バカ騒ぎをして酔っぱらって、何しても起きないくらいぐっすり眠りこんでいる時の顔が
何とも言えず美しくて、それが切なかったなあ。


与えられた〈器〉に入りきらない才能を持ってしまった人の苦悩は
器のいいとこ2,3割ぶんくらいしか活用できていないような凡人の私には想像もできないが
それでも容量以上に詰め込まれた器は壊れるしかない、ということはわかる。
器が規定以上の膨大な容量に耐えられないのは当然のこと、
でも本人には器が壊れるのも中身が溢れ出すのもどうにも出来ない。

彼は自分がバレエをやることで家族がバラバラになったことを悔やみ、嘆いていたけれど
たとえ一緒にいたとしても普通の人には彼の苦悩は分からないだろうし
受け止めることも出来なかったのではないかと思う。

この人は、持ってしまった者として悩まなければならない運命だったんだろう。
そうやって「ダンサー」になっていくんだな。


でも、できれば坊主頭より乱れ髪で踊って欲しいと思ったワタクシです。
何だろう、舞踊家ってなぜか坊主系が多い気がする。
ちょっと突き詰めたいと思うと人って自然に髪を剃りたくなるのだろうか・・・?
単に邪魔なのかもしれないけど。



*映画を見た日に詐欺めいた来日公演の情報が駆け回っていて
 何というタイミングかと笑っちゃった。
 多分スカラ座さんに回ってきたのはけっこうお終いの方だと思うので
 初期の上映で人気に眼を付けた輩が金の臭いをかぎつけたんだろうなあ。



by quilitan | 2017-08-31 23:52 | 見る | Trackback | Comments(0)

猫と雑文ときどきお絵描き  


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