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青い炎 : 中里恒子

先日の古書市で見つけた中里恒子の本。
全集以外はは3,4冊しか見あたらず、本当は全部買いたいくらいだったが
殆どが署名本でけっこうなお値段だったのでこれしか買えませんでした。
高いのは1万越えてたし、無理無理。
結構多作だったようだし、名の知れた作品もあるのに
「今現在お取り扱いなし」という状態は何だろう。
確かに、昨今は儲からない本は出せないという出版事情もわからないでもないが
こういう文章に触れる機会が端からないなんて、こんなもったいないことはないのに。

「歌枕」もそうだったけど、特にこれという話の盛り上がりがあるわけでもないし
鋭い目線で人間を描く、というようなこともない。
悪く言えば主人公の日々の行動や価値観を漫然と描写しているだけとも見える。
内面の苦悩とか葛藤というものがないわけではないけれど、
ちょっと離れたところから見ているような感じで露わにしない。
これは作家の美意識なのかな、とも思う。
そして、読み手の目線がいつの間にかAという人物からBという人物に移っている。
ふと気付くと、あれ、さっきまで男の気持ちで読んでいたのに今は女だ、なんてことになる。
こういう感覚って今まであまり記憶にない。
でもそれがべつに気にならないのは、文章で筋立てを読んでいるのではないからだ。
何というか、そこに書かれている「時」の空気を読んでいるように
流れに乗って先へ先へと読み進んでいく。

少し乾いた異国の雰囲気もある、凛とした文章。
好きだなあ。



by quilitan | 2017-02-21 00:16 | 読む | Trackback | Comments(0)

猫と雑文ときどきお絵描き  


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